手紙VINCENT
VAN GOGH
書影の仮デザイン
帰り道の空の色を、最後にゆっくり見たのはいつだろう。知っているつもりの風景も、目を留めれば、違う表情を見せる。ゴッホの手紙を開くと、その小さな発見に名前を与えたくなる。
今回読むのは、フィンセント・ファン・ゴッホの書簡 ↗。完成した絵だけを見ていると遠く感じられる画家が、言葉の中では、迷いながら世界を見つめる一人の人間として現れる。

The Metropolitan Museum of Art / Public Domain
ここでたどりたいのは、画家の生涯のあらすじだけではない。世界へ向けられた一人のまなざしだ。絵と言葉を行き来しながら、私たち自身の見方も、少しずつほどいていこう。
日々の暮らしの中で、私たちは多くのものを「もう知っている」と片づけてしまう。けれど、見ることと、知っていることは同じではない。いつも通り過ぎる木の影や、夕方の窓に映った色にも、まだ言葉になっていない何かがある。
“the sight of the stars
always makes me dream”Vincent van Gogh、テオ宛書簡638。1888年7月9日または10日。
オンライン校訂版、頁なし。原文と出典 ↗
引用に添える画像:上掲の自画像。
星を見て、想像する。そこでは、目の前にあるものと、まだ見えないものがつながっている。読むこともまた、同じような営みなのかもしれない。一人の言葉を入口に、自分の生活の中にある景色が、以前とは違って見えてくる。
一冊を閉じた、そのあとに。
この手紙から持ち帰りたいのは、特別な場所へ行くことよりも、いつもの場所で少し長く立ち止まることだ。すぐに意味や役割を決めず、目の前のものを、もう一度見てみる。
一冊を閉じても、世界は続いている。今日の帰り道には、空を見上げてみる。そのささやかな行動から、次の読書はもう始まっているのかもしれない。
何を見るか、どのように見るかという、その人と世界との関わり方。
